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1. 分子メカニズムの解明

 

1-1 電位治療器とその作用仮説

 高電圧電界を発生させる医療機器は、100V 電源から最大 9000V に昇圧した交流高圧を、絶縁された片側の電極に導き、対極との間に電界を生じさせ、その中に人体を置く機器です。体内には数十マイクロアンペア程度の微小な電流が誘導されることが知られています。日本国の厚生労働省からは、“頭痛・肩こり・不眠症および慢性便秘の緩解”の効果が承認・認証されています。また、この医療機器については、文献を調査した結果を基に、医学・科学・工学の専門家による評価委員会で得た作用の仮説があります。その作用仮説は、以下に示すものです。

 

【作用仮説】 効果に影響を与えていると思われる作用は、ヒトに電界を掛けると、体毛が揺れて皮膚を刺激することや、皮膚温の上昇が確認されていますので、“ 電界作用が皮膚の触覚や圧を感じる感覚受容器を刺激し、血液の循環とからだの調節機能に働きかける。”ものと考えられます。



1-2 はじめに

 高電圧電界を発生させる医療機器のヘルス・ベネフィットのメカニズムについては十分に理解されていません。このベールで覆われている領域を明らかにするために、私は、統合的分子医学(Integrative Molecular Medicine)の観点から挑戦する戦略を企画しました。この研究の焦点は、高電圧電界を発生させる医療機器によって誘発された内在性活性分子をヒトで発見することです。その発見から、その活性分子のターゲット蛋白との相互作用の解析を駆使することによって、薬理効果を裏付ける分子レベルでの証拠を積み上げていきます。この章では、分子メカニズムの新しい洞察について議論します。そのために必要な専門的な用語や化学物質名を変更することはできませんでした。したがって、たとえ医学・薬学の専門家であっても、最新の分子薬理学の専門知識をもっていないと少し理解が難しいかもしれません。また、より詳細な研究情報に興味のある方に向けて関連論文のリストをこの章の最後に提示しました。



1-3 ヒトの代謝物に着目

 まず、我々の研究の中で、一つのブレークスルーになった段階から始めます。高電圧電界を発生させる医療機器のエクスポージャー(30分間条件)は、9-hydroxyoctadecadienoic acid (9-HODE)、13-hydroxyoctadecadienoic acid (13-HODE)および  13-hydroperoxy-octadecadienoic acid(13-HpODE)に有意な上昇を引き起こしました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2016)。このデータは、 35 名の参加者サンプルによるヒト血漿リピドミクスから得られたものです。対照的に、HODE と関連した diol-metabolites、epoxide-metabolites、ketone-metabolites または prostaglandin 類のレベルに変化はありませんでした(Nakagawa-Yagi Y et al, 2016)。外来刺激により非特異的な変化が誘発される現象は、望ましくない作用を引き起こす可能性が大きくなると医学・薬学の領域においては考えられています。それらの観点を考慮すると、高電圧電界を発生させる医療機器による 13-HODE(13-HpODE を含めて)および 9-HODE の特異的な誘導は極めて興味深いものです。



1-4 サーモセンサーに作用する内在性脂質由来シグナル分子

 次に我々がこのようなリピドミクスを駆使することに至ったかの理由になります。未知領域の解明には、網羅的に調査するプロセスが先入感を排除する意味から重要です。そこで、我々はスクリーニングする目的で網羅的メタボロミクスを行いました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2014)。クエン酸回路およびオルニチン回路に関連する代謝物レベルには変化がない条件下において、数種の脂肪酸や脂肪酸アミドのレベルに有意な変化が認められました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2014)。この 161 種類の代謝物のスクリーニングが脂質由来代謝物にスポットライトを当てることに繋がりました。(Nakagawa-Yagi Y et al, 2014)。近年、内在性の脂質由来代謝物の一部が、シグナル分子の役割を演じる新事実を発見した分子医学的な研究論文が急激に増えています(Patti GJ et al, 2012; Piomelli D et al, 2014)。また、鍵の役目であるシグナル分子と鍵穴の役目をする受容体蛋白との相互作用を明らかにしていく研究アプローチは、未知の薬理学的作用の分子メカニズム解明に必要不可欠となっています(Itoh T et al, 2008; Nieto-Posadas A et al, 2012; Norn C et al, 2015)。それでは 13-HODE や 9-HODE は、ヒトの体内でどんな役割を演じているのでしょうか?その疑問に対してヒントを与えてくれた興味深い論文に出会いました(Patwardhan AM et al, 2010)。その論文の著者は、侵害刺激を感知する侵害受容器の一つとして知られる Transient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)蛋白の新知見を報告していました。TRPV1 は、細胞膜を 6 回貫通する基本構造をもつ TRP チャネルファミリーの一つであり、非選択性カチオンチャネルとして働く thermosensor 蛋白と考えられています(Tominaga M et al, 1998; Szolcsanyi J et al, 2012)。驚くことに、13-HODE と 9-HODE は 43 度付近の熱刺激で皮膚内に生成するシグナル分子として Patwardhan らによって同定されていました。その論文は、侵害性の熱刺激を感知する生体防御システムの一つとしての TRPV1 蛋白に対してこれら 13-HODE および 9-HODE がメディエーターとして役割を演じている可能性を示唆するものでした。現在では、 TRPV1 は、一次感覚神経のうち、主に無髄C線維に発現しているポリモーダル侵害受容器としての役割を担っていると考えられています(Julius D, 2013)。一方で、 13-HODE や 9-HODE を含む脂質由来シグナル分子は、ヒト皮膚の表皮や真皮でリーゾナブルな濃度で検出されることが報告されています(Kendall AC et al, 2015)。これらの研究論文は、皮膚組織内で増加したそれらの脂質由来シグナル分子が感覚神経の末梢側終末に存在する TRPV1 蛋白へ作用するメカニズムが非常にあり得ることを示しています。



1-5 メカノセンサーに作用する内在性脂質由来シグナル分子

 Transient receptor potential vanilloid 2(TRPV2)蛋白の消化管筋肉上にある mechano-stretch sensor としての役割を指摘した論文が 2010年に発表されています(Mihara H et al, 2010)。その論文中で lysophosphatidylcholine(lysoPC) TRPV2 受容体アゴニストの一つとしての in vitro 薬理活性が示されており、また lysoPC 投与によって腸管内容物の移動が促進されることが in vivo で確認されています。では lysoPC はヒトの体内でどのような過程で生成しているのでしょうか?  Glycerophosphatidylcholine の分解生成物を一つの例として考えてみると以下のようになります。 phospholipase D の活性化により choline と phosphatidic acid が生成します。一方、 phospholipase C の活性化により phosphorylcholine と diacylglycerol が生成します。それらの choline および phosphorylcholine は、高電圧電界を発生させる医療機器のエクスポージャーで変化しないことが既にスクリーニング段階で判明していました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2014)。しかし、phospholipase A₂(PLA₂) の活性化により生成する lysoPC については、まだデータがない状態でした。そんな時に、電界が PLA₂ の活性化を誘発するという興味深い論文に出会いました(Thuren T et al, 1987)。 PLA₂ に関しては、以前は arachidonic acid(FA-20:4) 遊離に伴う炎症惹起の面に偏っていましたが、炎症を収束させる方向に働く group IID secretory PLA₂ のようなサブタイプが最近見つかっています(Miki Y et al, 2013)。様々な難治性の疾患の根底にある慢性的な炎症に対して抗炎症効果を示す中心的なプレイヤーに関与する新しいタイプの PLA₂ の研究は、現代の生物医学で注目される領域の一つです。このような経緯で、我々は、 lysoPC レベルに対する高電圧電界を発生させる医療機器の効果を調べることになったわけです。その結果、 lysoPC-22:4 レベルの有意な増加が 50 名の参加者サンプルによるヒト血漿リピドミクスから判明しました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2017)。対照的に、 lysophosphatidic acid(lysoPA) のレベルには影響はありませんでした。さらに、 lysoPC-22:4 分子は TRPV2 受容体蛋白の中のポケットに対して高い親和性を示すことがin silicoドッキング・シュミレーションで明らかになりました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2017)lysoPC-22:4分子が TRPV2 受容体結合を介して消化管内容物の肛門側への移動を促進する可能性が示唆されました。このことは、高電圧電界を発生させる医療機器のエクスポージャーによる慢性便秘の緩解を説明する少なくとも一つの分子メカニズムと考えられます。さらに、 TRPV2 タンパクが心筋介在板において mechanosensor として働くこと(Kataoka Y et al, 2014)や神経突起の先端において細胞伸展の感知センサーとして働くこと(Shibasaki K et al, 2010)も判明しています。 TRPV2 に関する新知見の蓄積は未知の研究領域の注目を集める可能性を秘めています。



1-6 睡眠に関連する内在性活性分子

 Peroxisome proliferator-activated receptor-alpha (PPAR-α) が睡眠・覚醒相が後退するタイプの睡眠障害を改善する一つの薬物標的になり得る新知見が発表されています(Shirai H et al, 2007)。その論文は、睡眠相後退症候群モデルの活動時間の 3 時間シフトが PPAR-α アゴニストである bezafibrate の 14 日間投与によって誘発されることを報告しています。興味深いことに、 PPAR-α アゴニスト様作用を示すことで注目されている内在性シグナル分子の一つである oleoylethanolamide(OEA) が高電圧電界を発生させる医療機器のエクスポージャーによって血中レベルの有意な増大を示しました(Guzman M et al, 2004; Nakagawa-Yagi Y et al, 2014)。さらに、ヒト PPAR-α 蛋白の結晶構造を用いた OEA の分子ドッキングは、フィブラート系薬剤誘導体である AZ242 と類似な結合モードとして観察されました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2014)。したがって、 OEA の PPAR-α 蛋白への刺激作用で生体リズムのシフトによって睡眠相後退が正常化するとの推測は理にかなっています。ちなみに、 24 時間の断眠後に  OEA  の有意な上昇が健康なボランティア 20 名の脳脊髄液の分析から明らかになっています(Koethe D et al, 2009)。さらに、断眠条件で増大する内在性の睡眠促進物質として、uridineや prostaglandin D₂ があげられます(Inoue S et al, 1984)。我々の研究では、高電圧電界を発生させる医療機器のエクスポージャーによって uridine diphosphate のレベルは有意に上昇しましたが、 prostaglandin D₂ のレベルは変化しませんでした(Nakagawa-Yagi Y et al, 2014; Nakagawa-Yagi Y et al, 2016)。今後、 uridine diphosphateにuridine と同様な睡眠促進作用があるのかどうかについて精査する必要があります。



1-7 痛みを緩和する内在性活性分子

 非 PPAR-α pathway を介した OEA によって誘発される鎮痛メカニズムがまず考えられます(Suardiaz M et al, 2007; Fehrenbacher JC et al, 2009; Nakagawa-Yagi Y et al, 2014)。別の可能性として、皮膚のケラチノサイトにある G protein-coupled receptor 40  (GPR40) を介して分泌された beta -endorphin によって誘発される鎮痛メカニズムが考えられます(Fell GL et al, 2014; Nakagawa-Yagi Y et al, 2015)。さらに、プリン性受容体を介した uridine diphosphate によって誘発される鎮痛メカニズムもまた考えられます(Okada M et al, 2002)。一方、皮膚局所の hypersensitivity-defunctionalization システムによって誘発される鎮痛メカニズムが考えられます。しかし、この場合は、侵害受容器の defunctionalization を介するので作用発現までに少し時間がかかることが予想されます。この鎮痛メカニズムの典型例を以下に示します。 8-Methyl-N-vanillyl-trans-6-nonenamide(capsaicin)の 8 %パッチ剤である “Qutenza” は、帯状疱疹後神経痛の痛みを緩和する医薬品として USA や EU で臨床応用されています(Anand P et al, 2011; Vay L et al, 2012)。さらに、別のメカニズムが存在している可能性があるため、研究を続ける必要があります。



1-8 血流に関連する内在性活性分子

 ある特定のシグナル分子が感覚神経末梢側終末に作用すると、軸索反射と呼ばれるメカニズムで神経ホルモンが放出されます。その放出された神経ホルモンによって血流が増大する現象が明らかになっています。そこで、高電圧電界を発生させる医療機器のエクスポージャーの場合はどうなるかについて調べました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2016)。その結果、血漿中の substance P がエクスポージャー後 30 分経過した時点で有意に上昇することが判明しました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2016)。同一条件下において、 calcitonin gene-related peptide、vasoactive intestinal peptide、bradykinin および motilin のレベルに有意な変化は認められませんでした(Nakagawa-Yagi Y et al, 2016)。感覚神経末端から放出された substance P が血管内皮細胞内の nitric oxide synthase の活性化と平滑筋細胞内の guanylate cyclase の活性化を引き起こします。細胞内の cyclic guanosine monophosphate(cyclic GMP) のレベルが増大することによって血管弛緩が誘発されるわけです。したがって、なぜ血流量が増大するのかを考える場合、 cyclic GMP のような細胞内セカンドメッセンジャーのレベル変化の観点から考察することが薬理学的に重要となります。ちなみに、これらの nitric oxide synthase-guanylate cyclase-cyclic GMP 系を介した血管弛緩現象については、 Furchgott RF、Ignarro LJ および Murad F による1998年のノーベル生理学・医学賞の対象となりました。内在性脂質由来シグナル分子による血管弛緩については、 linoleic acid(FA-18:2) やその代謝産物 (13-HODEや13-HpODE) が冠状動脈に対して弛緩を誘発することが報告されています(Pomposiello SI et al, 1998)。さらに、消化管の血液循環に大きな役割をもっている腸間膜動脈に対して、 OEA が血管内皮依存性の弛緩を誘発することが発見されています(AlSuleimani YM et al, 2013)。特に、その論文中の腸間膜動脈の弛緩効果に関する濃度依存性曲線の EC₅₀ 値がヒト血中での OEA(46.8 nM) 濃度に近いレベルになっている点に注目しなければなりません(Psychogios N et al, 2011)。このことは、腸間膜動脈の OEA による血流改善がヒトで起こっている可能性を暗示しています。今後は、このようなシグナル分子の血中濃度と薬理効果の発現濃度が一致する点に着目した研究が一つの潮流となるでしょう。



<参考文献>

  • AlSuleimani YM et al (2013) Mechanisms of vasorelaxation induced by oleoylethanolamide in the rat small mesenteric artery. European Journal of Pharmacology 702: 1-11.
  • Anand P et al (2011) Topical capsaicin for pain management : therapeutic potential and mechanisms of action of the new high-concentration capsaicin 8% patch. British Journal of Anaesthesia 107: 491-502.

    Fehrenbacher JC et al (2009) Rapid pain modulation with nuclear receptor ligands. Brain Research Review 60: 114-124.

    Fell GL et al (2014) Skinβ-endorphin mediates addiction to UV light. Cell 157: 1527-1534.

    Guzman M et al (2004) Oleoylethanolamide stimulates lipolysis by activating the nuclear receptor peroxisome proliferator-activated receptor alpha (PPAR-alpha). Journal of Biological Chemistry 279: 27849-27854.

    Inoue S et al (1984) Differential sleep-promoting effects of five sleep substances nocturnally infused in unrestrained rats. Proceedings of the National Academy of Sciences USA 81:6240-6244.

    Julius D (2013) TRP channels and pain. Annual Review of Cell and Developmental Biology 29: 355-384.

    Itoh T et al (2008) Structural basis for the activation of PPARγ by oxidized fatty acids. Nature Structure Molecular Biology 15: 924-931.

    Kataoka Y et al (2014) TRPV2 is critical for the maintenance of cardiac structure and function in mice. Nature Communications5: 3932.

    Kendall AC et al (2015) Distribution of bioactive lipid mediators in human skin. Journal of Investigative Dermatology 135: 1510-1520.

    Koethe D et al (2009) Sleep deprivation increases oleoylethanolamide in human cerebrospinal fluid. Journal of Neural Transmission 116: 301-305.

    Mihara H et al (2010) Involvement of TRPV2 activation in intestinal movement through nitric oxide production in mice. Journal of Neuroscience 30: 16536-16544.

    Miki Y et al (2013) Lymphoid tissue phospholipase A₂ group IID resolved contact hypersensitivity by driving antiinflamatory lipid mediators. Journal of Experimental Medicine 210: 1217-1234.

    Nieto-Posadas A et al (2012) Lysophosphatidic acid directly activates TRPV1 through a C-terminal binding site. Nature Chemical Biology 8: 78-85.

    Norn C et al (2015) Mutation-guided unbiased modeling of the fat sensor GPR119 for high-yield agonist screening. Structure 23: 2377-2386.

    Okada M et al (2002) Analgesic effects of intrathecal administration of P2Y nucleotide receptor agonists UTP and UDP in normal and neuropathic pain model rats. Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 303: 66-73.

    Patti GJ et al (2012) Metabolomics implicates altered sphingolipids in chronic pain of neuropathic origin. Nature Chemical Biology 8: 232-234.

    Patwardhan AM et al (2010) Heat generates oxidized linoleic acid metabolites that activate TRPV1 and produce pain in rodents. Journal of Clinical Investigation 120: 1617-1626.

    Piomelli D et al (2014) Peripheral gating of pain signals by endogenous lipid mediators.Nature Neuuroscience 17: 164-174.

    Pomposiello SI et al (1998) Linoleic acid induces relaxation and hyperpolarization of the pig coronary artery. Hypertension 31: 615-620.

    Psychogios N et al (2011) The human serum metabolome. PLoS ONE 6(2): e16957.

    Shibasaki K et al (2010) TRPV2 enhances axon outgrowth through its activation by membrane stretch in developing sensory and motor neurons. Journal of Neuroscience 30(13): 4601-4612.

    Shirai H et al (2007) PPAR is a potential therapeutic target of drugs to treat circadian rhythm sleep disorders. Biochemical and Biophysical Research Communications 357: 679-682.

    Suardiaz M et al (2007) Analgesic properties of oleoylethanolamide (OEA) in visceral and inflammatory pain. Pain 133: 99-110.

    Szolcsanyi J et al (2012) Multisteric TRPV1 nocisensor: a target for analgesics. Trends in Pharmacological Sciences 33: 646-655.

    Thuren T et al (1987) Triggering of the activity of phospholipase A₂ by an electric field. Biochemistry 26: 4907-4910.

    Tominaga M et al (1998) The cloned capsaicin receptor integrates multiple pain-producing stimuli. Neuron 21: 531-543.

    Vay L et al (2012) The thermo-TRP ion channel family: properties and therapeutic implications. British Journal of Pharmacology 165: 787-801.



    <関連論文リスト>

    1)Nakagawa-Yagi, Y, Hara H, Fujimori T, Yamaguchi T, Midorikawa A, Hara A; Non-targeted human plasma metabolomics reveals the changes in oleoylethanolamide, a lipid-derived signaling molecule, by acute exposure of electric field.
    Integrative Molecular Medicine, Vol.1, No.2:29-37(2014)
    doi:10.15761/IMM.1000108

    2)Nakagawa-Yagi Y, Hara H, Yoshida Y, Midorikawa A, Hara A; Discovery of a novel effect of electric field exposure on human plasma beta-endorphin and interleukin-12 levels: Insight into mechanisms of pain alleviation and defense against infection by electric field therapy.
    Integrative Molecular Medicine, Vol.2, No.3:200-204(2015)
    doi:10.15761/IMM.1000139

    3)Nakagawa-Yagi, Y, Hara H, Nakagawa, F, Sato, M, Hara A; Acute exposure to an electric field induces changes in human plasma 9-HODE, 13-HODE, and immunoreactive substance P levels: Insight into the molecular mechanisms of electric field therapy.
    Integrative Molecular Medicine, Vol.3, No.2:600-605(2016)
    doi:10.15761/IMM.1000210

    4)Nakagawa-Yagi Y, Hara H, Tuboi H, Abe J, Hara A; Effect of 3-hydroxybutyrate, an endogenous histone deacetylase inhibitor, on FOXO3A mRNA expression in human epithelial colorectal Caco-2 cells: Insight into the epigenetic mechanisms of electric field therapy.
    Integrative Molecular Medicine, Vol.3, No.5:764-768(2016)
    doi:10.15761/IMM.1000241

    5)Nakagawa-Yagi Y, Hara H, Nakanishi H, Tasaka T, Hara A; Acute exposure to an electric field induces changes in human plasma lysophosphatidylcholine (lysoPC)-22:4 levels: Molecular insight into the docking of lysoPC-22:4 interaction with TRPV2.
    Integrative Molecular Medicine, Vol.4, No.2:1-7(2017)
    doi:10.15761/IMM.1000274

    6)Nakagawa-Yagi Y, Hara H, Nakanishi H, Kanai C, Hara A; Molecular insight into the docking of lysophosphatidylethanolamine (lysoPE)-22:6 interaction with GPR119: Acute exposure to an electric field induces changes in human plasma lysoPE-22:6 and lysoPE-20:4 levels.
    Integrative Molecular Medicine, Vol.4, No.5:1-7(2017)
    doi:10.15761/IMM.1000305
    注)Integrative Molecular Medicine(出版国:United Kingdom)は査読付きのオープン・ジャーナルの一つです。

 

2. ヒトでの評価研究

高電圧電界療法(high-voltage electric field therapy)に関する評価研究論文の一部を簡潔にご紹介します。

 

2-1 論文題名:Effects of electrical Healthtron on curing of non-communicable diseases: Case study of Banlad hospital Petchaburi province (in Thai).
<筆頭著者および所属> Nawarat S(Banlad Hospital・Petchaburi・Thailand)
<発表雑誌> Region 4 Medical Journal 18, (2):139-149(1999)
<ヒトでの評価内容>
タイ王国・Banlad病院内の医療従事者74名(内訳:myalgia 67名・stress 35名・insomnia 30名・allergy 16名・hypertension 12名・diabetes mellitus 11名)が参加して、高電圧電界治療器エクスポージャー(1日1回30分間:30回コース)がどのような影響を与えるかについて「improved sign (改善)」、「unchanged sign(不変)」および「worsen sign (悪化)」の指標を用いて実施しました。その結果、insomnia(不眠症)およびmyalgia (筋肉痛)に対して高電圧電界治療器のエクスポージャーは有意な改善を示しました。

 

2-2 論文題名:High-voltage electrostatic therapy for chronic sleep disorder in aged patients(in Chinese).
<筆頭著者および所属>Zhang L(Chinese PLA General Hospital・Beijing・China)
<発表雑誌> Academic Journal of PLA Postgraduate Medical School 33, (7):730-732(2012)
<ヒトでの評価内容>
高齢者(>65歳)の睡眠障害患者70名を無作為に高電圧電界治療器エクスポージャー群(35名、1125-30分間:10~15回コース)と認知行動療法群(32名、3週間)に分けて治療前後の変化をPSQI(Pittsburg sleep quality index)質問表で評価しました。高電圧電界治療器エクスポージャー群は、 PSQI のすべてのサブスケール(Sleep quality・Sleep latency・Sleep duration・Sleep efficiency・Sleep disturbance・Sleep medications・Daytime dysfunction)スコアに対して有意な改善を示しました。一方、認知行動療法群は、PSQIのサブスケール(Sleep quality・Sleep latency・Sleep duration)スコアに対してのみ統計的に有意な改善を示し、それ例外のサブスケール(Sleep efficiency・Sleep disturbance・Sleep medications・Daytime dysfunction)スコアに有意な変化を示しませんでした。一部のサブスケールだけではなく、トータルスコアにおいても、高電圧電界治療器エクスポージャー群は認知行動療法群と比較して、統計的に有意に優れていることが明らかになりました。

 

2-3 論文題名:Effect of high-voltage electrostatic therapy on sleep disorder in older adults(in Chinese).
<筆頭著者および所属> Zhang L(Nan Lou of Chinese PLA General Hospital・Beijing・China)
<発表雑誌> Chinese Journal of Rehabilitation Theory and Practice 18, (3):286-288(2012)
<ヒトでの評価内容>
睡眠障害のある高齢者(66~92歳)30名を対象に高電圧電界治療器エクスポージャー(1120-30分間:10~15回コース)の効果を PSQI(Pittsburg sleep quality index)質問表で評価しました。高電圧電界治療器の介入により、PSQIの質問表総合スコアおよびすべてのサブスケール(Sleep quality・Sleep latency・Sleep duration・Sleep efficiency・Sleep disturbance・Sleep medications・Daytime dysfunction)スコアの有意な改善が誘発されました。高電圧電界治療器エクスポージャーの不眠症に対する有用な効果が実証されました。

 

2-4 論文題名:Electric field exposure improves subjective symptoms related to sleeplessness in college students: A pilot study of electric field therapy for sleep disorder.
<筆頭著者および所属> Takashi Otsuki(Morinomiya University of Medical Sciences)
<発表雑誌> Immunology, Endocrine & Metabolic Agents in Medicinal Chemistry17, (1):37-48(2017)doi:10.2174/1871522217666170815163329

<ヒトでの評価内容>
睡眠障害のある学生19名を対象に高電圧電界治療器エクスポージャー(1130分間:5日間)の効果をOSA睡眠調査票(OSA sleep inventory)で評価しました。高電圧電界治療器の介入により、睡眠時間(sleep length)スコア、起床時眠気(sleepiness on rising)スコア、および疲労回復(refresing)スコアの有意な改善が誘発されました。高電圧電界治療器エクスポージャーの睡眠に対する有用な効果が5日間のコース条件で認められました。

 

2-5 論文題名:慢性疼痛に対する電界治療の有効性 – 明確な基礎疾患を有しない症例におけるパイロットスタディ-
<筆頭著者および所属> 榛葉 俊一(静岡済生会総合病院)
<発表雑誌> 日本統合医療学会誌 5,(1):68-72(2012)

<ヒトでの評価内容>
基礎疾患がない日常的に疼痛を感じている対象者に対して高電圧電界治療器エクスポージャー(1120分間:数日おき4回)が実施されました。その結果、疼痛に関するVAS(visual analog scale)指標の有意な改善が認められました。


2-6 論文題名:電界治療器(ヘルストロン)による肩こりへの効果 – 自覚症状、血流、自律神経の変化 –
<筆頭著者および所属> 伊藤 不二夫(伊藤整形・内科クリニック)
<発表雑誌> 日本温泉気候物理医学会誌 68,(2):110-121(2005)
<ヒトでの評価内容>
肩こり30例(一般的治療群12例とその治療に高電圧電界治療器エクスポージャーを追加した治療群18例)の VAS(visual analog scale)指標の経過を観察しました。一般的治療群の VAS 指標の有意な改善が14日目から認められ、一方、高電圧電界治療器エクスポージャー追加群は7日目から有意な改善を示すことが左肩を用いた解析から判明しました。また、高電圧電界治療器エクスポージャー単独条件下でヒト僧帽筋内の血流量が有意に増大することが近赤外線分光法を用いた計測器で実証されました。

 

ヘルス・ベネフィットを明らかにするために、日本国の医療施設だけではなく、タイ王国および中華人民共和国の病院においても評価研究が実施されたという事実を付記したいと思います。

 

3. 2018年の研究論文の一部分

 
Nakagawa-Yagi Y et al, Integrative Molecular Medicine Vol.5, No.3: Page 1-6 (2018)
急性電界はヒト血漿中のインターロイキン-6と-1βのレベルを下方制御する:電界療法による炎症緩和の根底にある分子メカニズム
 
緒言
 

 人体を高電圧電位にさらすデバイスは、日本の厚生労働省によって承認されています[1-19]。高電圧電界療法は、肩こり、頭痛、不眠症、および慢性便秘の治療に有効であると報告されています[1-20]。電界療法は80年以上前に発見されましたが、その健康上の利点に関連する分子メカニズムはまだよく分っていません。これらの研究の結果をまとめると、高電圧電位曝露はいくつかの条件において代替療法であり得ることが示されています。血漿メタボロミクスおよびリピドミクスを用いた高電圧電位曝露によって誘導されるバイオマーカーを同定する我々のこれまでの試みが3-hydroxybutyrate (3-HBA), cis-8,11,14-eicosatrienoic acid, 9-hydroxyoctadecadienoic acid (9-HODE), 13-hydroxyoctadecadienoic acid (13-HODE), oleoylethanolamide (OEA), lysophosphatidylethanolamine (lysoPE)-20:4およびlysoPE-22:6のような脂質由来シグナル伝達分子の検出につながりました[21-25]。内在性脂質由来シグナル伝達分子は、症状と電気薬学的なターゲット蛋白間の橋渡し役を演ずる候補分子として提案されています[21-26]Smaniらによる最近の研究において、lysophosphatidylcholine (lysoPC)の前処置がアシネトバクター・バウマニによって引き起こされる腹膜敗血症のモデルマウスの起炎症性サイトカインレベルの低下を誘発することが示されました[27]。以前の我々の研究において、高電圧電界曝露で誘導されるlysoPC-22:4レベルの上方制御が健常者の血漿中で認められています[28]。したがって、我々は電界曝露後の血漿中lysoPC-22:4レベルの上昇には interleukin (IL)-1β、IL-6やTNF-αを含む起炎症性サイトカインの変化に関連し得るとの仮説を立てました。本研究では、IL-1βおよびIL-6のレベルが高電圧電界処理(9kV/電極+9kV/電極,30分)によって下方制御されることを報告します。さらに、我々は、lysoPC-22:4とテンプレート構造(PDB ID 6BPQ)を用いたTRPM8のホモロジーモデルとの相互作用を探索するための結合実験を行いました。
 
結果
 
健康な被験者からの血漿中のサイトカインに対する高電圧電位曝露の影響
 

 我々は複数の時点で健康な被験者からの血漿中のサイトカインに対する高電圧電位曝露(9kV/電極+9kV/電極)30分間の影響を調べました(図1)IL-1βのレベルは、曝露前に観察されたものと比較して、高電圧電位曝露後の0時間および30分間の時点で有意に下方制御されました(IL-1β-0時間後:0.66-倍,p=0.00005;IL-1β-30分後:0.83-倍, p=0.025。さらに、IL-6のレベルは、曝露前に観察されたものと比較して、高電圧電位曝露後の30分の時点で有意に下方制御されました(IL-6:0.68-倍, p=0.039)。同一条件下において、高電圧電位曝露は、IL-10、IL-18、TNF-αまたはTGF-β1のレベルに影響しませんでした(図1c-f)
 
健康な被験者からの血漿中のホルモン類に対する高電圧電位曝露の影響
 

 我々は特異性をみるために健康な被験者からの血漿中のホルモン類に対する高電圧電位曝露(9kV/電極+9kV/電極)30分間の影響を調べました(表1)。高電圧電位曝露は、adrenaline、dehydroepiandrosterone sulfate、histamine、insulin、neuropeptide Y、serotoninまたはsomatostatinのレベルに影響しませんでした。
 
TRPM8ホモロジーモデルでのlysoPC-22:4、lysoPE-22:6およびlysoPE-20:4のドッキングシミュレーション
 

 急性電界曝露は、健康な被験者の血漿中のlysoPC-22:4レベルの顕著な増加を誘発します(Nakagawa-Yagi Y et al, 2017)LysoPC-16:0は、TRPM8を発現するCHO細胞においてTRPM8を活性化します(Andersson DA et al, 2007)。したがって我々はAutoDock Vinaを用いて、TRPM8の活性部位へのlysoPC-22:4in silicoドッキングを調べました。我々は出力ポーズの数を20個に設定し、合計100個の候補立体配座を得ました。LysoPC-22:4は良好な結合エネルギー(-10.8 kcal/mol)を示しました(表2)。LysoPC-22:4は、Tyr-745、Glu-782およびTyr-1005と水素結合を形成しました(図1a)。結果は、lysoPC-22:4TRPM8チャネルに結合することを示している。同一条件下において、icilin(よく知られたTRPM8アゴニスト)は-11.4 kcal/molと強い相互作用エネルギーを示しました(図1b, 表2)。さらに、TRPM8の活性部位へのlysoPE-20:4およびlysoPE-22:6in silicoドッキングを調べました。同様のドッキングスコアは、lysoPC-22:4の代わりにlysoPE-20:4を用いて得られました(表2)LysoPE-22:6-11.4 kcal/molと強い相互作用エネルギーを示しました(表2)LysoPE-20:4は、Glu-782、Asn-799、Asp-802、Arg-842およびTyr-1005と相互作用し、lysoPE-22:6は、Asn-799およびArg-842と相互作用しました(図1c-d,2)。続いて、特異性をみるために、13-HODE、9-HODEおよびOEATRPM8の活性部位へのin silicoドッキングを調べました。13-HODE、9-HODEおよびOEAの結合エネルギーは、それぞれ-9.1、-9.3および-9.8 kcal/molでした(表2)。
 
考察
 

 今回の研究では、IL-1βおよびIL-6のレベルが急性の電界曝露に感受性であることを健康なヒトで示しました。特に、起炎症性サイトカイン一つであるTNF-α応答の欠如は、IL-1βIL-6の応答がヒトの免疫機能に有害な非特異的な作用ではないことを示しています。我々の以前の研究は15分間の急性電界曝露後の血漿中IL-6レベルに無影響であることを示しています(Nakagawa-Yagi Y et al, 2015)。血漿中のIL-6レベルに対する有意な抑制効果を展開するためには、30分間の急性電界曝露が必要であるかもしれません。電界曝露によって誘発されるIL-6およびIL-1βのような起炎症性サイトカインの下方制御のための最適な条件を同定するにはさらなる研究が必要です。高電圧電位曝露後のIL-6およびIL-1βの血漿レベルの変化についての分子メカニズムは複雑であり、いくつかの流れで解釈することが可能です。内在性脂質由来の代謝産物である3-HBANLRP3インフラソームの内在性阻害剤として機能することが示唆されています(Goldberg EL et al, 2017)。非標的ヒトメタボロミクスを用いて、我々は最近、血漿中3-HBAレベルの上昇が電界曝露によって誘発されることを証明しています(Nakagawa-Yagi Y et al, 2016)。興味深いことに、Youmらは3-HBATNF-α産生に有意な影響なしにLPS-刺激ヒト単球でのIL-1β分泌を抑制することを報告しました(Youm Y-H et al, 2015)。さらに、IL-6は、IL-1βの下流標的として知られており、NLRP3インフラマソーム媒介状態の患者の血中で一貫して増加するエビデンスがあります(Ridker PM et al, 2016)。したがって、電界曝露は3-HBAの上方制御を通じてNLRP3インフラマソームを阻害する可能性があると推測することは理にかなっています。
 

 さらに、他の脂質由来シグナル伝達分子類のlysoPC-22:4のレベル(約1.47倍)の急性電界曝露(9kV/電極+9kV/電極, 30分)で誘発される増加を以前に我々は示しました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2017)。lysoPC-22:4の血漿レベルの変化におけるTRPチャネルファミリーの役割を考慮していた時に、AnderssonらがTRPM8をトランスフェクトしたCHO細胞においてLysoPC-16:0による[Ca²⁺]iの増加を報告しました(Andersson DA et al, 2007)。残念なことに、lysoPC-22:4は薬理学的実験のための純粋な化学試薬として市販されていません。したがって、ヒトTRPM8を安定的に発現するCHO-K1または HEK293T細胞におけるカルシウムの細胞内レベルに対するlysoPC-22:4の影響を調べることは現時点では不可能です。文献では、バーチャル・シミュレーションに関する報告が増えています(Nakagawa-Yagi Y et al, 2012; Nakagawa-Yagi Y et al, 2017)。薬理学的結果を支持するためにin silico分子ドッキングを含む研究が行われてきました。しかしながら、ヒトTRPM8の結晶構造はまだ決定されていません。したがって、我々はTRPM8のホモロジーモデリングに焦点を当てました。今回の研究において、ドッキングシミュレーションはlysoPC-22:4が良好な結合親和性(-10.8 kcal/mol)を有することを示しました。ドッキングスコアは、13-HODE、9-HODEおよびOEAなどのいくつかのよく知られたTRPV1アゴニストと比較して相対親和性を決定しました(Ahern GP, 2003; Patwardhan AM et al, 2010)。これらの結果は、TRPV1アゴニストがTRPM8ホモロジーモデルでのicilin、lysoPC-22:4、lysoPE-20:4およびlysoPE-22:6より弱い親和性を示すことを示唆しています。重要な相互作用する残基において、icilin結合ポケットを有するTRPM8ホモロジーモデル(PDB ID:IQGR)を用いた以前の研究はTyr-745への水素結合を報告しています(Pedretti A et al, 2009)。よく知られたTRPM8アゴニストであるmentholに関する別の研究は、TRPM8のS4の842位のアルギニンからアラニンへの変異がmentholに対する親和性を減少することを示しました(Janssens A et al, 2011)。ヒトTRPM8の結晶構造が決定されれば、lysoPC-22:4、lysoPE-20:4およびlysoPE-22:6の結合ポケットを同定することは興味深いことかもしれません。しかしながら、lysoPC-22:4、lysoPE-20:4およびlysoPE-22:6はGPR119も活性化するので、電界曝露を受けている間には、それらの受容体がlysoPC-22:4のターゲットになっている可能性も否定できません(Nakagawa-Yagi Y et al, 2017)
 

 サイトカイン類の調節に関する考慮すべきエビデンスが、関節炎および末梢神経痛の動物モデルから得られています(Pan RY et al, 2000; Naito Y et al, 2009; Sacerdote P et al, 2013; Venkatesha SH et al, 2015)。特に、Naitoらは静電界曝露が関節炎後肢のIL-1βの発現増大を抑制するが、TNF-αでは抑制しないことを報告しました(Naito Y et al, 2009)。興味深いことに、その研究でのサイトカインの感受性は、今回の研究で観察されたものと比較できるものでした。一方、KhalilらはマクロファージのTRPM8が起炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの産生におけるバランスシフトを介して大腸炎を調節することを報告しました(Khalil M et al, 2016)。さらに、Ramachandranらは、icilinによるTRPM8の活性化がin vivoモデルにおけるトリニトロベンゼンスルホン酸-またはデキストラン硫酸ナトリウム-誘発大腸炎を減弱することを報告しました(Ramachandran R et al, 2013)。したがって、電界曝露は、lysoPC-22:4、lysoPE-20:4およびlysoPE-22:6によるTRPM8の結合を介して炎症を緩和していると推測することは理にかなっています。しかしながら、IL-1βおよびIL-6のレベルの変化がニューロン、マクロファージ、メラノサイトまたはケラチノサイトに由来するかどうかについては不明です。電界曝露による抗炎症の根底にあるメカニズムはまだ解明されていませんが、TRPM8の内在性アゴニストとしてのlysoPC-22:4、lysoPE-20:4およびlysoPE-22:6がそのメカニズムに役割を果している可能性があります。したがって、IL-1βやIL-6のレベル低下は、電界曝露を受けたらい性神経炎患者で観察された改善原因のすくなくとも一つであると考えられます(Shiga K et al, 1967; Nakamura K et al, 1970)。さらに、ProudfootらはTRPM8の活性化が慢性の末梢神経疼痛モデルで鎮痛を誘発することを報告しました(Proudfoot CJ et al, 2006)。TRPM8の活性化が急性および炎症性疼痛に対して鎮痛効果を発揮するというエビデンスもあります(Liu B et al, 2013)。興味深いことに、Vanmolkolらは若年成人の片頭痛患者の血中CRPレベルの上昇を報告しています(Vanmolkot FH et al, 2007)。Renらは血清試料の脂質解析を用いて、片頭痛患者のlysoPE-22:6のレベルが低下することを最近報告しています(Ren C et al, 2018)。したがって、電界曝露はlysoPE-22:6の上方制御を介して片頭痛のような頭痛を緩和すると推測することは理にかなっています。将来的に、片頭痛に対する電界曝露の可能な影響を評価することは興味深いかもしれません。
 

 エイジングにおける慢性炎症は、高齢者の罹患率や死亡率の強い危険因子としても提案されています(Franceschi C et al, 2014)。注目すべきことは、センテナリアン(百寿者)は「抗インフラマエージング」と呼ばれる抗炎症応答を介して慢性の亜臨床的炎症に対処していることです(Minciullo PL et al, 2016)。今後の研究において、ヒトの寿命に対する反復的な高電圧電位曝露の可能性のある影響を評価することは興味深いかもしれません。
 

 老齢女性やコホート研究のメタ分析に関する研究からIL-6と睡眠の質との間に考慮すべきエビデンスが得られています(Friedman EM et al, 2005; Hong S et al, 2005; Okun ML et al, 2007)。興味深いことに、睡眠障害はCRPやIL-6の高いレベルと関連するが、TNF-αには関連しないことがIrwinらによって報告されています(Irwin MR et al, 2016)。対照的に、Milradらは不十分な睡眠の質がTNF-α、IL-1βおよびIL-6の高い循環レベルと関連していることを報告しています(Milrad SF et al, 2017)。今回の研究においては繰り返し電界治療を行なっていませんが、電界療法はIL-1βおよびIL-6の下方制御によって不眠症を緩和する(すくなくとも一部)と推測することは理にかなっています(Nawarat S et al, 1999; Zhang L et al, 2012; Ohtsuki T et al, 2017)。lysoPC-22:4、lysoPE-20:4およびlysoPE-22:6のような内在性脂質由来シグナル伝達分子が睡眠障害に対して緩和効果を示すことを明らかにするためには、さらなる基礎研究が必要です。
 

 結論として、急性の高電圧電位曝露は、健康な被験者の血漿中IL-1βおよびIL-6レベルに顕著な抑制効果を誘発しました。lysoPC-22:4、lysoPE-20:4およびlysoPE-22:6のin silico分子ドッキングがTRPM8で観察されました。我々の発見は、高電圧電位デバイスによって誘発される頭痛および不眠症の緩和に関与するメカニズムについての洞察を与えるものです。これらのメカニズムは「インフラマエージング」の防御にとっても重要であるかもしれません。
 
<参考文献>

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4. 2019年の研究論文の一部分

 
Nakagawa-Yagi Y et al, Integrative Molecular Medicine Vol.6, No.5: Page 1-8 (2019)
標的リピドミクスは電界への急性曝露による N-acyl serine 類の変化を明らかにする:TRPV1 または PPAR-α との N-18:1 serine 相互作用のドッキングに関する分子的洞察
 
緒言
 

 高電圧電位療法は、肩こり、頭痛、不眠症、慢性便秘の効果的な治療法となる可能性があります[1-19]。電界療法は約90年前に発見されましたが、その健康上の利点に関連する分子メカニズムはとらえどころのないままです。人体を高電圧電位にさらす治療装置は、日本の厚生労働省によって承認されました[1-19]。文献のレビューは、高電圧電位曝露がいくつかの症状に対する代替療法である可能性を示唆しています。高電圧電位曝露で誘発される血漿バイオマーカー群を見つけるという我々の以前の試みが palmitic acid, palmitoleic acid, oleic acid, linoleic acid, linolenic acid, cis-8,11,14-eicosatrinoic acid (DGLA), cis-5,8,11,14,14,17-eicosapentaenoic acid, and cis-4,7,10,13,16,19-docosahexaenoic acid などの脂質の検出につながりました[12]。 脂質メディエーターを定量化する最近の方法は、selected reaction monitoring (SRM) 分析を活用しています[17-18]。SRM を用いて、被験者の血漿中 lysophosphatidylcholine-22:4, lysophosphatidylethanolamine-20:4 および lysophosphatidylethanolamine-22:6 を含む高電圧電位曝露誘発脂質レベルの高まりを示しました[17-18]。したがって、電界曝露後の phosphatidylethanolamine の血漿リゾ型の変化が、 N-acyl serine類の変化にリンクしている可能性があるとの仮説を立てました。さらに、骨芽細胞 MC3T3E1 の細胞数に対する N-18:1 SER や N-16:0 SER のような N-acyl serine 類の刺激効果が最近報告されたことが、高電圧電位の単回刺激を受けた被験者に SRM を用いた血漿 acyl serine 類を検出する研究を後押しました[20]。この研究では、N-18:1 serine および N-16:0 serine が高電圧電位曝露(9kV/電極+9kV/電極, 30分)によって上方制御されることを実証しました。さらに、N-18:1 serine または N-16:0 serine と TRPV1 または PPAR-α の活性部位との間の相互作用を調べるために、in silico ドッキングシミュレーションを実施しました。

 
結果
 
健康な被験者の血漿中 N-acyl serine 類に対する高電圧電位曝露の影響
 

 N-acyl serine 類に対する高電圧電位曝露(9kV/電極+9kV/電極)30分間の影響を調べました(図1)N-16:0 serine および N-18:1 serine 血漿レベルは、曝露前のレベルと比較して、高電圧電位曝露後の0で有意に上方制御されましたN-16:0 serine: 1.42倍, p=0.0305; N-18:1 serine:1.49-倍, p=0.0315)。同一条件下において、高電圧電位曝露は、N-18:0 serine, N-18:2 serine, N-20:4 serine および N-22:6 serine のレベルに影響しませんでした(図1)

 
健康な被験者の血漿中 N-acyl ethanolamine 類に対する高電圧電位曝露の影響

 
 N-acyl serine は N-acyl ethanolamine と構造的に類似しているため、次に N-acyl ethanolamine 類に対する高電圧電位曝露(9kV/電極+9kV/電極)30分間の影響を調べました(図2)N-16:0 ethanolamine, N-18:1 ethanolamine および N-18:2 ethanolamine の血漿レベルは曝露前に観察されたものと比較して、高電圧電位曝露後30分の時点で有意に上方制御されました(N-16:0 ethanolamine:1.24倍, p=0.0300; N-18:1 ethanolamine:1.27-倍, p=0.0285; N-18:2 ethanolamine:1.34倍, p=0.0170)。同一条件下において、高電圧電位曝露は、N-18:0 ethanolamine のレベルに影響しませんでした(図2)。

 
TRPV1 ホモロジーモデルにおける N-18:1 serine, N-16:0 serine, N-18:1 ethanolamine, N-16:0 ethanolamine または N-18:2 ethanolamine のドッキングシミュレーション
 

 N-18:1 ethanolamine および N-18:2 ethanolamine は、ヒト TRPV1 を発現する HEK293 細胞において細胞内カルシウムの増加を引き起こします[24]。したがって、高電圧電位曝露後の血漿 N-18:1 serine および N-16:0 serineレベルの増加は、TRPV1 の内在性アゴニストとしての活性化にリンクしている可能性があるという仮説を立てました。AutoDock Vina ソフトウェアを用いて、TRPV1 の活性部位における N-18:1 serine, N-16:0 serine または capsaicin(よく知られている TRPV1 アゴニストである)の in silico ドッキングを調べました[25-27]。出力ポーズの数を20個に設定し、合計100個の候補立体配座を得ました。Capsaicin は-7.915 kcal/mol の強い相互作用エネルギーを示しました(表1)。Capsaicin は、Thr-550、Ser-512 および Glu-570 と水素結合を形成しました(図3a、表1)。同一条件下において、N-18:1 serine は-6.359 kcal/mol の良好な結合エネルギーを示しました(表1)。N-18:1 serine は Thr-550 および Ala-666 と水素結合を形成しました(表1、図3b)。N-18:1 serine の代わりに 9-HODE を用いて、同様のドッキングスコアが得られました(表1)。TRPV1 の内在性アゴニストである 9-HODE は、Thr-550 および Ala-666 と水素結合を形成しました(表1、図3c)。さらに、N-16:0 serine は-6.077 kcal/mol の良好な結合エネルギーを示しました(表1)。N-16:0 serine は Thr-550 および Ala-666 と水素結合を形成しました(表1、図3d)。続いて、特異性を決定するために、TRPV1 の活性部位への N-acyl ethanolamine 類の in silico ドッキングを調べました。N-18:2 ethanolamine、N-18:1 ethanolamine および N-16:0 ethanolamine の結合エネルギーは、それぞれ-6.421、-6.227 および -5.767 kcal/mol でした(表1)。

 
PPAR-α モデルにおける N-18:1 serine, N-16:0 serine, N-18:1 ethanolamine, N-16:0 ethanolamine または N-18:2 ethanolamine のドッキングシュミレーション
 

 N-18:1 ethanolamine は、PPAR-α の推定内在性活性化剤として脂肪分解を誘発することが知られています[13, 28-29]。AutoDock Vina ソフトウェアを用いて、PPAR-α の活性部における N-18:1 serine, N-16:0 serine または bezafibrate(よく知られている PPAR-α アゴニストである)の in silico ドッキングを調べました[30]。出力ポーズの数を20個に設定し、合計100個の候補立体配座を得ました。Bezafibrate は-9.323 kcal/molの強い相互作用エネルギーを示しました(表2)。Bezafibrate は、Ser-280、Tyr-314、His-440 および Tyr-464 と水素結合を形成しました(表2、図4a)。同一条件下において、N-18:1 serine は-7.366 kcal/mol の良好な結合エネルギーを示しました(表2)。N-18:1 serine は Ser-280、Tyr-314 および His-440 と水素結合を形成しました(表2、図4b)。さらに、N-16:0 serine は-7.161 kcal/mol の良好な結合エネルギーを示しました(表2)。N-16:0 serine は Ser-280、Tyr-314 および Tyr-464 と水素結合を形成しました(表2、図4c)。N-16:0 serine の代わりに N-18:1 ethanolamine を用いて、同様のドッキングスコアが得られました(表2)。N-18:1 ethanolamine は Ser-280、Tyr-314 および His-440 と水素結合を形成しました(表2、図4d)。続いて、N-16:0 ethanolamine および N-18:2 ethanolamine の PPAR-α の活性部位への in silico ドッキングを調べて、特異性を決定いたしました。結合エネルギーは、それぞれ-6.570および-6.979 kcal/mol でした(表2)。

 
ヒト肝がん HepG2 細胞の FABP1 mRNA 発現に対するN-18:1 serine の影響
 

 FABP1 および ACOX1 は、PPAR-α の応答遺伝子であるため[12, 31]、次に qRT-PCR を使用して FABP1 mRNA に対する N-18:1 serine 処理の効果を確認しました(図5a)。ヒト HepG2 では、N-18:1 serine FABP1 mRNA 発現の用量依存的増加をもたらしました(N-18:1 serine-10 µM:1.48倍, p=0.0164; N-18:1 serine-30 µM:1.98倍, p=0.0112; N-18:1 serine-100 µM:2.02倍, p=0.0009)。次に、bezafibrate(よく知られている PPAR-α アゴニストである)がヒト HepG2 細胞における N-18:1 serine を模倣しているどうかを確認しました。Bezafibrate は FABP1 mRNA 発現を有意に増強しました(Bezafibrate-10 µM:2.86倍, p=0.0119)。また、ヒト HepG2 細胞の ACOX1 の mRNA 発現に対する N-18:1 serine の効果を調べました。N-18:1 serine はACOX1 mRNA 発現を増加させました(図5b)。さらに、PPAR-α アンタゴニストである GW6471 が N-18:1 serine 刺激誘発 FABP1 発現の効果を減弱させるかどうかを評価しました。N-18:1 serine (30 µM) 刺激 FABP1 応答は、30 µM の GW6471 によってほぼ完全に消失しました(図5c)

 
考察
 

 今回の研究では、N-18:1 serine および N-16:0 serine のレベルが急性の電界曝露に感受性であることを健康なヒトで示しました。ヒトの健康な対照における N-18:1 serine の血中濃度は、以前の定量分析によって得られた濃度と一致していました(Braghithy S et al, 2019)。非標的メタボロミクスを用いた以前のスクリーニングにおいて、電界曝露(9kV/電極+9kV/電極, 30分)が N-18:1 ethanolamine の1.24倍の増加を誘発することを見出しています(Nakagawa-Yagi Y et al, 2014)。SRM 分析を用いた今回の研究においては、電界曝露により同じ脂質種の1.27倍の増加が誘発されました。N-acyl serine 類の生合成についてはほとんど知られていませんが、いくつかの可能な N-acyl ethanolamine 類の生合成経路が提案されています(Ogura Y et al, 2016)。興味深いことに、N-acyl ethanolamine 類の生成に寄与する phospholipase A/acyltransferase (PLAAT) のファミリーが発見されました(Uyama T et al, 2017)。しかしながら、N-18:1 serine、N-16:0 serine、N-18:1 ethanolamine、N-16:0 ethanolamine および N-18:2 ethanolamine の電界誘発変化の詳細なメカニズムはまだ解明されていません。

 

 N-18:1 serine および N-16:0 serine の分子標的は複雑であるが、いくつかの流れで解釈することが可能です。今回の研究においては、TRPV1 とのドッキングシュミレーションにより N-18:1 serine およびN-16:0 serine の結合親和性値が良好であることが示されました。その結果は N-18:1 serine および N-16:0 serine が TRPV1 チャネルに結合することを示しています。Ahern は N-18:1 ethanolamine が protein kinase C 活性化剤の処理後に TRPV1 チャネルを活性化できることを報告しました(Ahern GP, 2003)。したがって、Tyr-511 残基の相互作用は TRPV1 の活性化部位に重要な役割をもっていないと言えます。N-18:1 ethanolamine とは対照的に、Thr-550 との水素結合の形成は、N-18:1 serine、N-16:0 serine および 9-HODE(内在性 TRPV1 アゴニストである)で検出されました(Patwardhan AM et al, 2010)。Capsaicin 結合ポケットをもつ TRPV1 のクライオ電顕構造を用いた研究は、Thr-550 への水素結合を報告しています(Yang F et al, 2015; Yang F et al, 2017)。これらの発見は、N-18:1 serine および N-16:0 serine が TRPV1 の内在性アゴニストとして作用することを示しています。Raboune らは N-22:6 serine が TRPV1 をトランスフェクトした HEK 細胞でアゴニスト活性を有することを報告しました(Raboune S et al, 2014)。機能性アッセイでの N-18:1 serine および N-16:0 serine のアゴニスト効果の評価を今後の研究で行なう必要があるのかもしれません。TRPV1 チャネルは、帯状疱疹後神経痛の痛みを緩和する薬理学的な標的として知られています(Vay L et al, 2012)。特に、Anand らは Qutenza(8% capsaicin を含むパッチである)での治療が侵害受容器の機能不全を介して鎮痛効果を生じることを報告しました(Anand P et al, 2011)。Borbiro らは最近、TRPV1 チャネルの活性化がメカノ感受性 Piezo チャネル活性を阻害することにより鎮痛を誘発すると報告しました(Borbiro I et al, 2015)。したがって、電界曝露が N-18:1 serine または N-16:0 serine による TRPV1 の結合を介して痛みを緩和する可能性があると推測することは理にかなっています。一方、Ito らは最近、骨格筋肥大の誘発における TRPV1 媒介カルシウムシグナル伝達の関与を報告しました(Ito N et al, 2013)。今回の研究では反復的電界処理は行なわれなかったが、加齢に伴う骨格筋萎縮に対する高電圧電位曝露の効果の可能性を評価することは興味深いことかもしれません。

 

 Eberlein らは前向きコホート研究で N-16:0 ethanolamine を含む皮膚軟化剤がアトピー性皮膚炎の症状を改善すると報告(Eberlein B et al, 2008)し、一方、Esposito らは toll-like receptor 4 (TLR4)- 依存性 PPAR-α 活性化を介した潰瘍性大腸炎モデルの結腸炎に N-16:0 ethanolamine 処理が改善したことを報告しました(Esposito G et al, 2014)。今回の研究において、N-acyl serine 類の PPAR-α とのドッキングシュミレーションは、N-18:1 serine および N-16:0 serine に対して良好な結合親和性値を有することを示しました。特に、PPAR-α への N-18:1 serine の結合は Ser-280、Tyr-314 および His-440 との水素結合の形成により安定化されました。主要な相互作用残基において、N-18:1 ethanolamine 結合ポケットを持つ PPAR-α モデル(PDB ID li7g)を用いた以前の研究では、Ser-280、Tyr-314 および Phe-273 への水素結合が報告されました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2014)。FABP1 および ACOX1 は PPAR-α 応答性遺伝子であるため(Nakagawa-Yagi Y et al, 2014; Landrier JF et al, 2004)、本研究ではそれらの発現を調べました。我々は以前に Affymetrix GeneChip ヒトゲノム U133 Pulus 2.0 アレイを用いて、N-18:1 ethanolamine が FABP6 遺伝子発現を2.8倍増加させることを報告しました(Nakagawa-Yagi Y et al, 2014)。今回の研究の結果は、N-18:1 serine (30 µM) がヒト HepG2 細胞で FABP1 mRNA 発現を約2倍増加させ、PPAR-α アンタゴ二スト GW6471 によって阻害されることを示しました。したがって、高電圧電位曝露が(少なくとも一部は) N-18:1 serine による PPAR-α の活性化を介して FABP1 mRNA 発現を誘発すると考えられます。
 

 PPAR-α アゴニストが in vivo でユニークな薬理効果をもっているという証拠があります。Brandstät らは、bezafibrate、clofibrate または fenofibrate のようなフィブラート系医薬品が C. elegans の寿命を延ばすことを報告しました(Brandstät S et al, 2013)。Zeitler らは、急速な進行を特徴とする多発性良性対称性脂肪腫(MSL)患者において、fenofibrate(200mg/日)が静止状態を誘発したと報告しました(Zeitler H et al, 2008)。一方、Shirai らは bezafibrate が睡眠相後退症候群(DSPS)などの概日リズム睡眠障害を緩和したことを報告しました(Shirai H et al, 2007)。骨量および破骨細胞形成において、Stunes らは fenofibrate が卵巣切除ラットでの骨量を維持することを報告しました(Stunes AK et al, 2011)。一方、Patel らは fenofibrate 処理がマウス骨髄由来の培養細胞で破骨細胞形成の減少を誘発することを報告しました(Patel JJ et al, 2014)。興味深いことに、Smoum らは N-18:1 serine での治療が in vitro で骨芽 MC3T3E1 細胞と初代頭蓋骨骨芽細胞の増殖を刺激し(Smoum R et al, 2010)、さらに N-18:1 serine が in vivo で卵巣切除による骨損失を救助したことを観察しました(Smoum R et al, 2010)。一方、Hashimoto は雑種ウサギの in vivo モデルにおいて電界曝露による仮骨形成の活性化を報告しました(Hashimoto T et al, 1975)。さらに、静的な電界曝露がヒト培養骨芽細胞の分化を刺激するという証拠があります(Su CY et al, 2017)。電界曝露による骨形成の根底にあるメカニズムは解明されてはいないが、証拠は内在性シグナル伝達分子としての N-18:1 serine の役割を示している。したがって、高電圧電界治療の期間に比例して70歳から90歳男性の骨密度がわずかに高い原因の少なくとも一つは、N-18:1 serine の増加であると考えられます(Harakawa S et al, 2014)。将来的には、多発性良性対称性脂肪腫(MSL)、睡眠相後退症候群(DSPS)および骨量に対する電界療法の可能な効果を評価する必要があります。

 

 興味深いことに、Scuderi らは N-16:0 ethanolamine 処理が PPAR-α の関与を介してアルツハイマー病のラットモデルで神経保護効果を示すことを報告しました(Scuderi C et al, 2014)。さらに、Campolongo らはトレーニング後のラットへの N-18:1 ethanolamine 投与が Morris 水迷路パフォーマンスでの記憶の固定を高めることを報告しました(Campolongo P et al, 2009)。これらの記憶増強効果は、PPAR-α アゴニストである GW7647 によって模倣され、PPAR-α を欠く変異動物では廃止されました(Campolongo P et al, 2009)。したがって、電界療法は、N-18:1 serine、N-16:0 serine、N-18:1 ethanolamine、N-16:0 ethanolamine および N-18:2 ethanolamine による PPAR-α シグナル伝達経路の活性化を介して記憶の固定を促進すると推測することは理にかなっています。将来的には、加齢に関連した記憶機能に対する電界療法の可能な効果を評価することは興味深いかもしれません。

 

 結論として、急性の高電圧電位曝露は、健康な被験者の血漿 N-18:1 serine および N-16:0 serine レベルに顕著な効果を誘発しました。N-18:1 serine および N-16:0 serine の in silico 分子ドッキングが TRPV1 および PPAR-α のモデルで観察されました。ヒト HepG2 細胞において、N-18:1 serine 刺激された FABP1 mRNA 発現は PPAR-α アンタゴニスト GW6471 に感受性でした。我々の発見は、高電圧電位デバイスによって誘発されるヘルスベネフィットの背後にある分子メカニズムについての洞察を与えるものです。



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